SIer がコンサルに進出してるって本当なの?
クラウド、AIといったテクノロジーが台頭する現代、多くの企業がDX戦略・実行に頭を悩ませています。
そんな中、顧客のシステム開発を支援してきたシステムインテグレーター(SIer)は従来の役割を超え、コンサルティングサービスの拡充を図っています。
これは、SIer業界に共通のトレンドと言えます。
一方で、中には
- SIerはなぜコンサル進出している?
- SIer大手各社の具体的な戦略は?
- 特にコンサル進出に力を入れてるSIerは?
といった疑問や興味が湧く方もいると思います。
既に大手コンサル企業がある中で、SIerがコンサル進出する理由や勝ち目があるのかなど、気になりますよね。
今回は現役SIer勤務の筆者が、SIerのコンサル化について詳しく解説します。
現役SIer勤務の私が、現場目線の意見も含めてリアルを解説します!
- SIerがコンサル化する理由
- 大手SIerの動向
- コンサルの重要性が増している背景
- コンサル化において注目の3社
SIerのコンサル進出:
SIerがコンサル化する理由
一言で言うと、より上流フェーズ(ビジネス企画)から参画することで、自社にシステム開発が発注される機会を増やすことが目的です。
顧客企業におけるシステム開発は、あくまで“手段”です。
何かしらのビジネス上の目的があり、その目的を叶えるためにシステム投資をします。
例えば、とあるSIerがコンサルに参画して「アプリの顧客満足度が低い」と課題を定義できたとします。
そうすると、そのSIerは他社が知らない顧客課題を知っている状態になるため、その解決策としてのシステム開発をいち早く提案できます。
仮にコンペになったとしても、コンサルで入ったベンダーは顧客課題を熟知しているため、提案を有利に進められる可能性は高いです。
近年、SIerのコンサル参画の重要性が加速度的に増している理由は後ほど説明しますが、基本的な原理は上記です。
SIerのコンサル進出:
大手SIerの動向
実際に、大手SIerはこぞってコンサルティング能力の拡充を謳っています。
今回は、SIerの売上高TOP5各社の中期経営計画を確認し、コンサルティング強化に言及している部分をピックアップしました。
富士通の中期経営計画(2023年度〜2025年度)には、
- 2025年度までにコンサルティング要員を10,000人規模に拡大
- DXコンサルの専業子会社「Ridgelinez」を設立
の2点が書かれています。
なお、2019年発表の旧中期経営計画では、コンサルティング要員の増員(500人→2,000人)が謳われているので、社として継続してコンサル強化にあたっていることが分かります。
NECは、2005年度にABeamConsulting(アビームコンサルティング)を買収し、いち早くコンサル体制を整えました。
AbeamConsultingは、コンサル大手デロイト・トーマツから枝分かれした本格派のコンサル集団。
2025中期経営計画には、
- Abeamを含む社内コンサル・DX人材の強化拡充
- 顧客のCxOやエンドユーザー部門へのアプローチ
を目指すと書かれています。
NTTデータは中期経営計画(2022年度~2025年度)の3つの戦略うちの一つに、Forecast起点のコンサルティング力を強化が謳われています。
日本随一の巨大企業グループであるNTTのリソースを活かし、顧客企業と共創パートナーとなることを目指します。
現時点でも、NTTグループの総合力を活かし、
- 戦略コンサル
- 業務コンサル
- 社会課題コンサル
など、幅広いコンサルケイパビリティを有しています。
日立製作所の2024中期経営計画には、巨額買収をしたGlobal LogicやLUMADA基盤を活かし、顧客のビジネス企画から参画するビジネスモデルが「デジタルエンジニアリング」という言葉で表現されています。
また、伝統的には日立コンサルティングを中心に、これまでもコンサルティング業務を行ってきました。
NRIの中期経営計画(2023-2025)には、持ち前のシンクタンク機能を強化し、シンクタンクからコンサル・実装まで、一気通貫でDXを支援することが謳われています。
各社で強弱はあれど、
- 顧客のビジネス企画からシステム開発を一気通貫で支援するビジネスモデル
- それを実現するためのコンサルティング能力・人員の拡充
を目指しているのが分かりました。
とはいえ、勘の良い方は、
- コンサルから入ればシステム開発の仕事が取りやすいなんて、今も昔も同じでは?
- 本当に、SIerのコンサル化が進んでいると言えるの?
- 元々そうだったのでは?
と疑問に思った方もいると思います。
そこで上記5社の過去中計も確認し、コンサル強化がどの程度謳われたかを比較しました。
富士通 | NEC | NTTデータ | 日立 | NRI | |
---|---|---|---|---|---|
今中計 | ◯ 2023 | ◯ 2021 | ◯ 2022 | ◯ 2022 | ◯ 2023 |
前中計 | ◯ 2019 | × 2018 | × 2019 | △ 2019 | ◯ 2019 |
(判例 ⚪︎:コンサル強化が明確に記載されている、△:一部記載されている、×:記載なし)
結果、(野村は出自からして半分コンサルの会社なので別として、)前回中計でコンサルの拡充を明確に謳っていたのは、富士通だけです。
よって、SIerがコンサルティングに注力する流れは、この数年に加速していると言えます。
SIerのコンサル進出:
コンサルビジネスの重要性が増している背景
「より上流から入ればシステム開発案件の獲得がしやすい」と言う話は、正直10年前も20年前も変わりません。
ではなぜ、今このタイミングで大手SIerはコンサル領域の進出をより明確に打ち出しているのでしょうか?
その理由として挙げられるのは、ビジネスとITの接近です。
従来のシステム開発は、顧客企業のユーザ部門↔︎IT部門↔︎SIerというコミュニケーションの構図でした。
SIerが対峙するのは顧客のIT部門です。
ユーザ部門↔︎IT部門間で業務要件をシステム要件に落とし込むので、SIerはIT部門から言われるシステム要件に沿って開発する構図でした。
しかし、現在は、ユーザ部門主導で開発がされるのがトレンドです。
新規システム開発がユーザー主導になってきている理由は以下2点です。
- 世の中の変化のスピードが速くなったため
- 非IT部門にもテクノロジーが民主化されたため
それぞれの内容についてもう少し詳しくみていきましょう。
ビジネスを成功させるためには、変化する世の中のニーズに素早く柔軟に対応することが、ますます重要になっています。
これはシステム開発も同様です。
ビジネス戦略を定義し、その実行のために必要なITを定義したところで、そのシステム開発に何ヶ月も数年もかかっていては、もはや投資の意味がなくなってしまいます。
「スピード感が大事」という論点は今も昔も同じですが、求められるスピード感がどんどん速くなっています。
これまでの、ユーザ部門→IT部門→SIerと流れていく構図は、統率が取りやすい一方、ステークホルダーが多いので、柔軟性や素早さの点ではマイナス。
そういった背景から、いわゆるDXと呼ばれるような新規システムでは、間にIT部門を挟まず、ユーザ部門とSIerが直接取引をする傾向になってきています。
上記のようなビジネスニーズの話に加えて、クラウドの普及により非IT部門でもテクノロジーを扱いやすくなったという理由もあります。
ITの専門家でなくとも、AWSを利用すればインフラ構築をでき、SaaSを利用することでAIなどのテクノロジーも活用できます。
また、ローコード・ノーコードツールといったコーディングレスでアプリ開発ができるツールも普及しています。
最近だと、生成AIによりプログラミングが民主化され、テスト工程も省力化されようとしています。
誰でもシステム開発ができるようなサービスが次々と世の中に出ています。
1点目で書いたように変化の早い世の中においては、ビジネスのプロであるユーザ部門がそういったプレパッケージされたツール活用し、システム面も面倒を見ていった方が、ビジネス成果が出やすいという側面もあります。
新規システム開発がユーザ主導になってきてるため、SIerとして将来性のある案件を取ろうとすると、ユーザ部門との関係性が重要です。
そして、ユーザ部門と関係性を築くためには、彼らがどんな業務をしていて、どんな課題があるのかを知る必要があります。
ここにSIerのコンサル進出の理由が詰まっています。
より上流のビジネス検討に入ることで、顧客の業務や課題が知れるのです。
こういった背景からコンサル化が進んでいるということです!
一方、IT部門を中心に取引をしているSIerの場合、これまではユーザ部門↔︎IT部門でシステム要件への落とし込みをやってくれていたので、システムは開発できても、その後ろでユーザが行っている業務については理解がありません。
これでは、実際にユーザ部門と仲良くなりたいと思ったところで、ユーザからすると自社の業務を知らない人たちとは話が噛み合いません。
ここまでの流れを整理すると、
- SIerに旨みのある新規システム開発案件は、ユーザ主導で行われる
- ユーザと関係性を築き、案件を獲得するためには、ユーザー業務の理解が必要
- SIerはコンサルに入ることで経営課題・ユーザ業務を知り、システム開発案件までをトータルでサポートしようとしている
というのが構図です。
ユーザー部門、IT部門、SIerの関係性を整理すると、
- 従来
ユーザ部門がビジネス要求の整理を行い、IT部門がシステム要件に落とす。
SIerはシステム部門が出してくる仕様通りに開発ができれば十分に役割を果たせた。 - 現在
新規システム投資においては、ユーザ部門とSIerが直接取引をする。
ユーザ部門はシステム要件の整理までやってくれないので、ビジネスとITに精通しソリューションを一緒に考えられるSIer(コンサルSIer)の存在価値が高い。
ただし、全てが全てユーザ部門と直接取引というわけではありません。
もちろん、基幹システムなど大規模で堅牢性が求められるシステムは、今でもシステム部門が担っています。
既にそういった領域を抑えているSIerには、EOSや規制対応などで定期的に収益機会があるので、ユーザ開発が増えたからといって今すぐ極端に収益が先細りになることはありません。
SIerが扱うような大企業のシステムは複雑に絡み合っているので、なんだかんだ色んな改修案件が舞い込んできます。
しかし、新規投資はユーザ部門側に予算がシフトする傾向にあるので、継続的な成長を見込むならユーザとビジネスを語り合うところから入っていく必要があります。
それが各社が掲げているコンサルティングケイパビリティの強化ということになります。
SIerのコンサル進出:
コンサル化において注目の3社
前述の通り各社コンサル進出に力を入れていますが、本記事では、その中でも注目の3社をピックアップしご紹介します。
- Simplex(シンプレクス)
- 富士通
- 電通総研(旧:ISID)
SIerのコンサル進出という意味で、個人的に注目しているベンダーを3つご紹介します!
Simplex(シンプレクス)は1997年創業の、金融業界に強みのあるベンダーです。
元々はシステム開発の会社でしたが、2021年にコンサル専業会社「Xspear(クロスピア)」を設立。
顧客のDX戦略に関して、クロスピアが戦略/ITコンサルを行い、シンプレクスがシステム化するビジネスモデルです。
既にコンサル系の売上は全体の10%に達しており、コンサルをフックにSBI証券とのジョイントベンチャーを設立。
今やSIerと呼ぶのは憚られるほど、コンサル×SIのビジネス化に成功しているベンダーです。
今後もコンサルビジネスの拡大が明記されています。
実際問題、SIerがコンサル進出する際に悩ましいのが、実績とノウハウは表裏一体(いわゆる鶏卵状態)なことです。
ベンダーとしてはコンサルに入って顧客の経営課題・業務課題を知りたいですが、顧客からするとコンサル実績のないベンダーには発注しません。
ここに関して、シンプレクスは株式非公開化で経営の柔軟性を高め、収益性を犠牲にすることも覚悟の上で、コンサル領域に踏み込んでいきました(2021年に再上場)。
「何なら無料でも良い。御社の5年間のロードマップを描かせてくれ」──。しかし、そんな尖ったセールス手法は、上場企業では採用できない。しかし、金子氏の意志はとまらない。さらなるブレイクスルーを目指すには、MBOの実施と思い切った戦略が必要だった。
引用元:FASTGROW
今やシンプレクスのコンサルビジネスは軌道に乗っていますから、SIerがコンサル進出する際にぶち当たる鶏卵の問題を、リスクを取って突破した事例といえます。
創業社長ならではの強いリーダーシップが、コンサル進出の成功のポイントだったと言えるでしょう。
ちなみに私自身、上場企業のSIerに勤めていますが、一定以上の利益率がないと提案させてもらえませんし、無料で(=赤字で)提案するなんて考えられません。
富士通は2019年発表の中期経営計画時点から、戦略的にコンサル強化を行なっています。
2019年の計画ではコンサル人材を500名→2000名に。
直近では2025年までに10,000人に増やす計画です。
なお、SIerがコンサル進出をする際の鶏卵問題(参画しないことにはノウハウがたまらないが、実績がないと受注できない)について、富士通ほどの大企業であれば、実績のあるコンサル会社を買収するという方法が取れます。
例えば、同業のNECはABeamConsultingを買収することでコンサル能力を獲得し、NEC本社のコンサル人材育成にも役立てています。
一方、コンサルティング能力を獲得したとして、新規ビジネスを攻めるには、時には大企業とは異なり柔軟な意思決定やリスクテイクをする必要があります。
この点、富士通はDX専業子会社のリッジラインズを創立し、親会社とは経営を疎結合にすることで、柔軟な戦略が取れるようになっています。
大手SIerの中でもコンサル進出への一段と強い本気度が感じられる富士通の今後に注目です。
電通総研は、電通グループのSIerです。
電通グループ向けのシステム開発の他に、
- 金融機関や製造業向けのシステム開発
- 人事給与や会計に関する自社パッケージの販売
を行なっています。
2024年にISIDから電通総研への社名変更、および電通内のシンクタンク部署・グループのコンサル会社の統合を実施。
シンクタンクとして社会課題の提言、コンサル、システム実装までワンストップで提供できる体制を敷きました。
統合した旧ISIDビジネスコンサルティングは、製造業を中心にコンサル実績があるので、これをどのように他の業界業態に広げていくのか、もしくは他のコンサル会社を買収することでケイパビリティの拡大を狙うのか。
上記で紹介した大手SIerに負けじとどこまで存在感を発揮できるのか、今後の動向が注目されます。
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SIerのコンサル進出:
まとめ
この記事では、SIerのコンサル進出についてご紹介しました。
システム開発をユーザ側が主導することになり、案件受注のためには顧客のビジネス理解がますます重要になっています。
そういった背景をもとに、SIerはコンサルティング能力の獲得を進めています。
大手各社の中では、特に富士通がコンサル要員を大幅に増強する動きを見せるなど、最もダイナミックに動いています。
中堅ベンダーではシンプレクスや電通総研がコンサル能力を効果的に獲得し、ビジネスの拡大に繋げています。
SIerに興味のある方には、ご参考になれば嬉しいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。